旧統一教会による「もうひとつの拉致」事件を忘れてはいけない(現代ビジネス寄稿文)

投稿者: | 2022年8月26日

保守改革派政治家としての私が見た「日本人妻問題」

ソウルで巻き起こった旧統一教会のデモ

安倍元首相の銃撃事件に端を発した旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)批判は、まさにパンドラの箱を開けたように、彼らと関係を持つ保守政治家への厳しい視線を呼び起こしています。

一方で、韓国の旧統一教会本部は問題の本質を改めるどころか、身勝手な主張を展開し始めました。

8月18日、韓国で行われた旧統一教会のデモは私たち日本人の感情を逆なでするものでした。ソウル市内に現れた約4000人の信者が持つプラカードや肩にかけられたタスキには、日本語で「人権弾圧を許すな」「信教の自由を妨害するな」と書かれ、「歪曲報道・宗教弾圧」とシュプレヒコールが繰り返されたといいます。

そしてその中に、合同結婚式で韓国の男性と結婚した日本人妻が多数含まれていたという報道に私は愕然としました。

さらに、登壇した旧統一教会のトップである韓鶴子総裁が「日本のいまの状況も、時を経れば、過ぎていく」などと発言したということです。

約30年前に社会問題化した日本における旧統一教会について、この十数年、政府もメディアも本質的な対策や報道を行いませんでした。その間に憎悪を膨らませた山上徹也容疑者が、安倍晋三元首相の銃殺事件を引き起こしたことを、旧統一教会はこれほどまでに軽く見ているのかと唖然とさせられます。

我々はもう一度、旧統一教会のなんたるかを深く知る必要があるのではないでしょうか。

そして、なによりも選挙支援という弱みを握られ、日本人の被害から目を背けてきた保守政治家に今一度、この問題を捉えなおしていただきたいと強く願います。

韓国に連れ去られた日本人妻たち

前回寄稿した「元足利市長の私が体験した『旧統一教会』の選挙妨害とその全手口」で、私が立候補した2001年足利市長選挙における旧統一教会の不当な選挙妨害についてお伝えしました。

それ以来、私は旧統一教会の政治への関与と信者によるいびつな選挙支援や、何よりその資金力について問題意識を持ち、旧統一教会の問題を詳しく調べるようになりました。

そこで目の当たりにしたのは、マインドコントロールの恐ろしさでした。それは今回のソウルでのデモに参加した旧統一教会信者の日本人女性たちも無縁ではありません。

実際に韓国に嫁いだ日本人女性の具体的な事例を紹介しましょう。

1968年生まれのA子さんは、21歳の時、突然、自宅に旧統一教会の信者Bが正体を隠して訪れ、「手相を見せてください」と言われます。それをきっかけに、たびたびBと会うようになりました。当時、A子さんは父と姉の3人くらし、母親を若くして亡くしていました。こうした家庭の事情を話すと、Bは「それは先祖の因縁」だとか、「このままだと家が途絶える」などと言い、A子さんは恐怖心から言われるがままに数珠を購入させられます。これをきっかけにセミナーやバーベキューなどの催しに参加するようになり、すっかり旧統一教会の教えの虜となってしまいました。

韓国人の夫は旧統一教会に10万円を支払った・・・

信者となってからはA子さん自身も訪問販売や伝道活動を積極的に行うようになり、ついに1995年、ソウルオリンピックスタジアムで行われた36万組の合同結婚式に参加するために、渡韓しました。

相手の韓国人男性は慶尚南道に住む農家の方で、驚くべきことに、旧統一教会の信者ではなかったそうです。

A子さんは、日本で旧統一教会から「韓国の男性は、日本人の男性より罪がない」とか、「日本は戦前に朝鮮半島で悪いことをしたので、日本人は韓国人に尽くさなければならない」などと散々言われていました。

また、言葉もわからないまま不安だらけでしたが、合同結婚式での祝福という旧統一教会で最も大事な行事に参加できるという喜びもあり、写真でしか見たことがなかった韓国人男性に嫁ぐことにしたそうです。

こうして韓国の片田舎での生活が始まります。

後にA子さんはその男性の親が、息子の嫁探しのために韓国の旧統一教会に10万円支払って日本人女性を嫁がせるように依頼していたことを知り、強い違和感を覚えたそうです。

片や、A子さんの家族にとってはたまりません。マインドコントロールされた娘が突然韓国に渡り、見ず知らずの韓国人男性と結婚させられてしまったのですから。そして、転機は結婚してから約2年後に訪れます。

長女が誕生し育児に励んでいたA子さんは、どうしても日本食が食べたくなり、子供を連れて日本の実家に里帰りした時に、脱会カウンセラーから説得を受けました。

半年以上もの話し合いを要しましたが、A子さんはついに旧統一教会からの脱会を決意しました。現在、長女は日本人として成人になり、平穏な日々を送っています。

今、A子さんは当時を振り返り、「旧統一教会のマインドコントロールがなければ、韓国に嫁ぐことは絶対になかった」と話しています。

「言葉によるもうひとつの拉致」

こうした日本人女性信者を合同結婚式に参加させて韓国に嫁がせるといった旧統一教会の行為は、「言葉によるもうひとつの拉致」だと私は捉えています。

ご承知のとおり、「拉致問題」といえば、真っ先に北朝鮮による日本人の拉致が頭に浮かびます。遡ること1970年代から1980年代にかけ、多くの日本人が北朝鮮によって拉致されたことが明らかとなり、以来、拉致被害者家族らの救出に向けた様々な取り組みが行われてきました。

いわゆる小泉訪朝(2002年9月と2004年5月)によって、計13人の拉致被害者とその家族が24年ぶりに帰国できました。しかしながら、警察庁によると、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者がまだ871人もいらっしゃるとのことです。拉致被害者の家族の皆様をはじめ、国や心ある多くの方々の努力にもかかわらず、依然として道は遠いままであり、拉致問題の根本解決に向けた継続的な取り組みが必要だと痛感します。

一方、旧統一教会の「言葉によるもうひとつの拉致」ともいえるマインドコントロールによって韓国に渡ったとされる日本人は推定で7000人にも上るといわれています。

■【北朝鮮の拉致と旧統一教会による拉致の比較表】

拉致の実行組織北朝鮮統一教会
拉致の手段言葉(マインドコントロール)
拉致の人数871人(警察庁公表)推定7000人と言われている
位置づけ被害者被害者。韓国に嫁ぐ前に、多くは日本国内で霊感商法をして加害者にもなっている
拉致被害者の意識早く日本に帰国したい過去に日本が犯した罪を償うために自分は韓国に嫁いできた。
家族の願い一刻も早く取り戻したい一刻も早く取り戻したい(例外あり)
家族の意識北朝鮮早く返せ! とにかく時間がない。日本国よ、さらに一段の努力を!統一教会許せない!
その一方で、入信する前にもっと早く気が付けば、という自責の念もある(例外あり)
対象国の協力なしなし
日本国の対応継続的に行っているなし
成果小泉訪朝以来なしなし

北朝鮮の「力による拉致」と、旧統一教会の「言葉によるもうひとつの拉致」。
日本国にとってどちらも同じくらい大事な問題です。

これに対し、「旧統一教会の信者については、自らの意志で合同結婚式に参加し、韓国の男性に嫁ぐことにしたのだから、仕方がないではないか」という反論が聞こえてきそうです。

しかし、彼女たちがマインドコントロールされ、主体的な意志決定ができなくなっている現状を考えれば、娘を一刻も早く日本に取り戻したいという家族の思いは、北朝鮮の拉致被害者の家族の方々と同じなのです。

残念ながら、この問題に関しては、北朝鮮の拉致問題のような政府による対応は今のところ取られていません。それどころか、旧統一教会は日本の政治の中枢を担ってきた保守政治家に選挙を通じて取り入り、自らの組織の保全に成功してきたのです。

そして、保守守政治家と旧統一教会のいびつな関係は、何より「霊感商法」という極めて犯罪性の高い行動を野放しにしてきたことにも特に色濃く反映されていると思います。

「40年で2兆円」とも言われる被害総額

霊感商法とは、ご案内のとおり、先祖の因縁を指摘して不安を覚えた人に壺や絵画などを法外な値段で売りさばき、善良な日本人の富を簒奪するものです。

旧統一教会による霊感商法の違法性を指摘し続けている「全国霊感商法対策弁護士連絡会」に所属する弁護士や消費生活センターに寄せられた旧統一教会に関する相談は、令和3年(2021年)12月までの34年間に3万4537件、被害総額は約1237億円にも上ります。

しかし、相談されずに放置されているものも含めれば、これは氷山の一角と言うべきでしょう。40年以上にわたり旧統一教会の脱会カウンセラーを担ってきた方の話では、富の簒奪は「2兆円はくだらない」とのことです。これが旧統一教会の被害を目の当たりにしてきた方々の実感であり、危機感なのです。

こうした旧統一教会による富の簒奪は、世界広しといえども日本のみであるということも特筆すべきことです。

保守政治家の矜持はどこに?

以上、縷々述べましたが、このような具体的な問題点を旧統一教会との関係を指摘される政治家たちは本当に知らないのでしょうか?

自民党の衆議院議員には、旧統一教会の韓鶴子総裁を最大限の賛辞である「マザームーン」と呼んでいた方もいるようです。また、前国家公安委員長は、旧統一教会系のイベントで実行委員長を務めていました。

旧統一教会と自民党の国会議員らは「日本・世界平和議員連合懇談会(平和議連)」を作っており、その会長代行の衆議院議員は「旧統一教会の何が問題なのかわからない」と語っています。

さらには、自民党の政調会長は旧統一教会との関係については今後適切に対応するとのことで、縁を切ると明言することはありませんでした。

一体全体、保守政治家の矜持はどこにいったのでしょう?
どうか、自分たちが旧統一教会の広告塔として利用され、結果的に被害を拡大させてしまっているという事実をもっと厳粛に受け止めていただきたいものです。
ことは国民の生命と財産にかかわる国益なのですから。

まだ遅くはありません。
旧統一教会も認めているキリストと並び称される三大聖人のひとりである孔子も語っているではありませんか。

「過ちては改むるに憚ること勿れ」と。

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