政治家が統一教会とのつながりを伏せる大きな理由は選挙支援。統一教会の選挙へのかかわりにも引き続き注意が必要だ。

投稿者: | 2022年10月10日

安倍元首相銃撃事件から早3か月が経ちましたが、一向に統一教会関連の報道が止みません。

そうした中、自民党の点検結果が不十分だった故か、第三者から統一教会とのつながり指摘され追加修正を迫られる政治家が続出しています。

彼らは一様に
「統一教会のイベントに参加していた記憶が呼び覚まされた」
「後になってわかったので、党に追加で報告した」
などと説得力のない弁解に追われています。

一体なぜこれほどまでして伏せたいのでしょうか?

大きな理由は、選挙支援にあることは明らかです。
政治家は、申し上げるまでもなく選挙の洗礼を受けなければなりません。
そのためには、大っぴらには統一教会の支援は受けられないが、可能な限り統一教会の支援は欲しいと内心思っているので、関係性を伏せようとしているのです。

その「伏せたい気持ち」は、選挙の実情を理解すれば自ずとわかります。

今回は、足利市長選挙での旧統一教会信者による選挙妨害を経験し、その恐ろしさを身に染みて知っているものとして、統一教会と選挙をテーマにその実態を深堀りしたいと思います。

●選挙のキーワード「熱伝導」と「3乗の法則」

よく選挙では、「熱伝導」と「3乗の法則」という言葉が使われます。

「熱伝導」とは、まずは候補者及びその側近が燃えたぎるような情熱をもって、政治にかける思いを熱く語り、それを周囲の方々に伝え広げることによって、支持者の輪を拡大させていくということです。

その「熱伝導」を数字で表したイメージが「3乗の法則」です。

例えば、市議会議員の当選ラインが3000票だとしますと、15の3乗は3375ですから、15人の人がそれぞれ15人の支持者を得て、さらにそれぞれの人が15人の支持者を得れば、3375票で当選ということになります同様に衆議院議員の当選ラインが10万票だとしますと、50の3乗は12万5,000票ですから、50人の人がそれぞれ50人の支持者を得て、さらにそれぞれの人が50人の支持者を得れば、12万5,000票を獲得して当選ということになります。

そこにさらに一桁加えて、500の3乗まで広げるとどうなるでしょう。
「500×500×500=1億2500万」となり、なんと日本の人口になってしまいます。

数字遊びに見えるかもしれませんが、いわゆる地盤、看板、鞄の3バンがない新人候補者にとっては、この「熱伝導」と「3乗の法則」という視点は選挙を勝ち抜く上で、とても大事なキーワードなのです。

●統一教会の票は単なる8万票ではなく、「乗数効果のある稼げる8万票」

そこで統一教会です。

この統一教会ほど、「熱伝導」が得意な集団はありません。
なにせ彼らの言うところの日々の伝道活動が、まさに選挙の予行演習(正体を隠した駅前でのアンケート活動は街頭演説のスタッフとして、手相拝見といった個別訪問勧誘は政治活動におけるビラ巻きなどに応用できます)のようなものですから。

友人の国会議員の秘書の話によりますと、これまでに何度も統一教会の信者が突然議員会館の事務所を訪ねてきて関係を築こうとしてきたことがあったらしく、彼らは国政に対して並々ならぬ関心を持っているという印象を受けたとのことです。特に、まだ地盤が確立できていない保守系の国会議員に入り込むことを意識しているようで、いわゆる青田買いをして、自分らの政策実現と長期的な組織の存続を図る戦略が透けて見えます。

実際、9月8日に自民党は党に所属する179人の国会議員に接点があったと明らかにしましたが、多くは中堅若手議員でした。

では、具体的に統一教会は選挙でどれくらいの数字を出すことができるのでしょうか?

一例として、今回の参議院選挙で統一教会が全面支援した井上義之氏を取り上げます。

選挙戦終盤の7月6日にさいたま市内で行われた統一教会関連の集会で信者が井上義之氏を熱心に応援する様子が、選挙後のマスコミのニュースで放映されたのをご覧になった方は多くおられると思います。演説会場では、井上氏は「信者となった」と紹介され、自身も賛助会員であることを認め、異様な盛り上がりを見せていました。
そして結果は、自民党内11番目の得票数で2期目の当選を果たしています。

ここで、井上氏の過去2回の得票数を比較しますと、

2016年7月87,946票 落選(統一教会は自民党公認候補の宮島喜文氏を支援)
2022年7月165,062票 当選(統一教会全面支援)

2016年と2022年の票の出方を見ると、統一教会の票は差し引きして約8万票入っていると推定できます。

また、2022年8月20日の朝日新聞によりますと、2016年の参議院選挙で統一教会から支援を受けた宮島喜文氏は、日本臨床衛生検査技師会の票だけでは当選できないので、戸惑いはあったが統一教会の支援を受けたことを認めていますし、その陣営幹部は「統一教会の票は6万~7万あったと思う」と語っています。発言からみると、おそらく宮島氏は井上氏のような「信者」ではなかったのでしょう。

さらに、9月22日に統一教会の「教会改革推進本部本部長」として記者会見した勅使河原秀行氏は、信者数は10万人いると話していますが、これは少し盛っているでしょうし、未成年も含めた数字である可能性もあることを考えれば、統一教会の信者の票は8万票程度というのは妥当な線だと思います。

ただし、この井上氏の票は、あくまでも参議院議員選挙の比例代表「2枚目の投票用紙」における票にすぎません。

同時に行われた参議院選挙の選挙区「1枚目の投票用紙」でも、統一教会信者の熱伝導により各選挙区で相当な影響力が及ぼされたと考えるべきですし、過去の他の選挙でも同様なことが言えます。

例えば、2022年9月21日に配信された文春オンラインによれば、2009年の衆議院選挙東京11区(事実上の下村博文氏と有田芳生氏の一騎打ち)を舞台に、有田氏の中傷ビラまきの実働部隊であった元統一教会信者の生々しい証言が掲載されています。

思わず、「元足利市長の私が体験した「旧統一教会」の選挙妨害とその全手口」で詳述した記憶が呼び覚まされましたが、やはり選挙のためには手段を選ばないというやり方は、特にアンチ統一教会のスタンスの政治家には徹底しているということなのでしょう。

もちろん、こうしたネガティブキャンペーンだけではなく、電話かけやポスター貼りそして政策ビラ配布など地道な活動を続けることにより、統一教会信者の目覚ましい働きぶりが候補者のお眼鏡にかなうようになり、統一教会は問題がある団体だとはわかっていても、選挙という“のるかそるか”のいわば極限状態の中でわらをもすがってしまう心理にかられ、結果的にズブズブの関係に陥ってしまうというのは容易に想像できます。

要するに、統一教会の票は単なる8万票ではなく、「熱伝導」と「3乗の法則」が加味された「乗数効果のある稼げる8万票」と見なければなりません。

統一教会の政治や選挙へのかかわり方の度合いを甘く見てはいけないのです。

●自民党総裁選挙は統一教会票がキャスティングボードを握れる可能性もある

ここで統一教会による影響があったかもしれないと指摘されている、2012年9月の自民党総裁選を振り返ってみましょう。

この総裁選は、民主党の支持率低迷を横目に自民党の政権復帰が現実味を帯びてきた時期でもあり、国民の関心も高いものがありました。当初は、石破茂氏と石原伸晃氏が有力視され、安倍晋三氏は本命ではありませんでした。

ところが、ふたを開けてみると安倍氏は第1回投票で2位につけ、決選投票で石破氏を破って総裁に就任しています。
安倍氏が第1回投票で2位につけられたのは石原氏に地方票で大差をつけているのが要因です。

議員票は「安倍54票」「石原58票」と拮抗していましたが、地方票(党員換算票)は、「安倍87票(約14万票)」「石原38票(約7万4500票)」であり、この49票(約6万5千票)差が響きました。

安倍氏と統一教会のただならぬ関係が明らかとなってきた現時点から振り返ると、「この総裁選では、安倍氏の地方票に統一教会票が相当入っていたのではないか」という疑念が浮かぶのは私だけではないと思います。

実際、しんぶん赤旗によれば、旧統一教会の関連団体の「世界戦略総合研究所」の事務局長は、この総裁選で「安倍氏に投票した」と認めているのですから。

この時の総裁選の自民党員の投票総数は、493,438票(投票率62.51%)。
統一教会の信者数は推定8万人。

仮に統一教会の信者が組織を挙げて自民党員になったら、総裁選のキャスティングボードさえ握れてしまうということにもなりかねない数字であるということは押さえておかなければならない視点だと思います。

自民党総裁選の投票結果(1回目)
 国会議員(197)地方票(党員算定票300)合計
石破 茂34165199
安倍晋三5487141
石原伸晃583896
町村信孝2734
林 芳正2427
(注)敬称略。過半数は249票

自民党総裁選の決選投票結果(2回目)
安倍晋三108
石破 茂89
(注)敬称略。国会議員票のみ。無効票1票


●日本には、いつまでも日本の富を搾取しつづける団体を見逃していく余力などない

いずれにしましても、そのような疑念を国民から持たれるということは、自民党にとっても不本意のはずです。

ですから、決別宣言や点検だけでなく、前回寄稿した『自民党が旧統一教会と金輪際縁を切るための「リトマス試験紙」』で記した通り、自民党として宗教とカルトの線引きを明確にするために宗教法人法の改正や反セクト法の制定を公約にし、さらにはカルトに騙されない社会環境づくりとカルトから救出するための社会体制の整備を積極的に推し進めてはいかがでしょうか。

失われた30年などといわれ、長い低迷期が続いている日本には、いつまでも日本の富を搾取しつづけるカルト集団を見逃していく余力などないのです。

その意味で、統一教会の選挙へのかかわりにも我々は引き続き注意を払っていかなければなりません。

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